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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)182号 判決

東京都新宿区西新宿三丁目九番地三号

原告

株式会社エイティ

右代表者代表取締役

瀬川明男

右訴訟代理人弁護士

石井成一

小沢優一

竹内淳

東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号

被告

新宿税務署長 神谷修

右指定代理人

新堀敏彦

神谷宏行

飯嶋一司

長岡忠昭

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告がいずれも昭和六三年一二月二七日付けでした

(一) 原告の昭和六〇年五月一日から昭和六一年四月三〇日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額六〇〇万〇七〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(但し裁決により一部取り消された後のもの)

(二) 原告の昭和六一年五月一日から昭和六二年四月三〇日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額二二六万二三一二円を超える部分及び重加算税賦課決定(但し裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 原告の昭和六二年五月一日から昭和六三年四月三〇日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額八一一万五、五九一円を超える部分及び重加算税賦課決定

を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、電子計算機の製造及び販売、電子計算機の利用技術の研究開発及び販売並びに電子計算機利用技術者の派遣業務などを主たる業務とする株式会社である。

原告の昭和六〇年五月一日から昭和六一年四月三〇日まで、昭和六一年五月一日から昭和六二年四月三〇日まで、昭和六二年五月一日から昭和六三年四月三〇日までの各事業年度の法人税につき原告がした確定申告並びに被告がいずれも昭和六三年一二月二七日付けでした各更正及び重加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て並びにこれに対する応答の経緯は別表1ないし3に記載のとおりである(以下、右各事業年度を順次、「六一年四月期」、「六二年四月期」、「六三年四月期」と、右各更正を順次、「六一年四月期更正」、「六二年四月期更正」、「六三年四月期更正」と、右各重加算税賦課決定(但し六一年四月期と六二年四月期に係るものについては裁決により取り消された後のものをいう。)を順次、「六一年四月期決定」、「六二年四月期決定」、「六三年四月期決定」といい、六一年四月期更正、六二年四月期更正及び六三年四月期更正を併せて「本件各更正」と、六一年四月期決定、六二年四月期決定及び六三年四月期決定を併せて「本件各決定」という。)。

2  原告は、六一年四月期更正のうち所得金額六〇〇万〇七〇〇円を超える部分及び六二年四月期更正のうち所得金額二二六万二三一二円を超える部分及び六三年四月期更正のうち所得金額八一一万五五九一円を超える部分並びに本件各決定に不服があるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。

三  抗弁

1  六一年四月期更正の適法性

(一) 六一年四月期の所得金額 一五二三万〇七〇〇円

原告の六一年四月期の所得金額は、原告が確定申告において所得金額として申告した金額である六〇〇万〇七〇〇円(別表1に記載のとおり。)に、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した金額のうち架空の費用と認められる後記(二)の金額九二三万円を加えた一五二三万〇七〇〇円である。

(二) 架空の外注費の額 九二三万円

右金額は、原告が六一年四月期の確定申告において、佐藤一成、比嘉武、新井清司及び望月正芳にそれれ支払った外注費として損金の額に算入した各金額(右各金額は別表4の「61年4月期」の欄の記載のとおりである。)の合計額である。

原告は、後記4のとおり佐藤一成、比嘉武、新井清司又は望月正芳に対して右金額を支払ったことはなく、右の外注費は架空に計上されたものであるから損金に当たらない。

(三) 六一年四月期更正における原告の所得金額は、別表1のとおり、右(一)の所得金額一五二三万〇七〇〇円と同額であるから、六一年四月期更正は適法である。

2  六二年四月期更正の適法性

(一) 六二年四月期の所得金額 一六七八万四七一二円

原告の六二年四月期の所得金額は、原告が確定申告において所得金額として申告した金額である二二六万二三一二円(別表2に記載のとおり。)に、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した金額のうち架空の費用と認められる後記(二)の金額一五六〇万円を加え、後記(三)の事業税認定損の額一〇七万七六〇〇円を差し引いて算定した一六七八万四七一二円である。

(二) 架空の外注費の額 一五六〇万円

右金額は、原告が六二年四月期の確定申告において、佐藤一成、比嘉武及び新井清司にそれぞれ支払った外注費として損金の額に算入した各金額(右各金額は別表4の「62年4月期」の欄のとおりである。)の合計額である。

原告は、後記4のとおり佐藤一成、比嘉武又は新井清司に対して右金額を支払ったことはなく、右の外注費は架空に計上されたものであるから損金に当たらない。

(三) 事業税認定損の額 一〇七万七六〇〇円

右金額は、前記1のとおり六一年四月期の所得金額が増加することに伴い、六二年四月期の未納事業税として当期の損金の額に算入されるべきものである。

(四) 六二年四月期更正における原告の所得金額は、別表2のとおり一六六七万六九五二円であり、右(一)の所得金額一六七八万四七一二円を上回らないから、六二年四月期更正は適法である。

3  六三年四月期更正の適法性

(一) 六三年四月期の所得金額 二八九六万九二六一円

原告の六三年四月期の所得金額は、原告が確定申告において所得金額として申告した金額である四六五万六四五四円(別表3に記載のとおり。)に、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した金額のうち架空の費用と認められる後記(二)の二〇六三万円及び後記(三)の売上計上もれ五二四万六〇〇七円を加え、後記(四)の事業税認定損の額一五六万三二〇〇円を差し引いて算定した二八九六万九二六一円である。

(二) 架空の外注費の額 二〇六三万円

右金額は、原告が六三年四月期の確定申告において、比嘉武、新井清司及び仲村弘明にそれぞれ支払った外注費として損金の額に算入した各金額(右各金額は別表4の「63年4月期」の欄に記載のとおりである。)の合計額である。

原告は、後記4のとおり比嘉武、新井清司又は仲村弘明に対して右金額を支払ったことはなく、右の外注費は架空に計上されたものであるから損金に当たらない。

(三) 売上計上もれの額 五二四万六〇〇七円

右金額は株式会社日立製作所大森ソフトウェア工場に対する原告の昭和六三年三月二一日から同年四月三〇日までの間の売上金額であり、原告はこれを昭和六三年四月期の売上に計上していなかったので、当期の益金の額に算入されるべきものである。

(四) 事業税認定損の額 一五六万三二〇〇円

右金額は、前記2のとおり昭和六二年四月期の所得金額が増加することに伴い、六三年四月期の未納事業税として当期の損金の額に算入されるべきものである。

(五) 六三年四月期更正における原告の所得金額は、別表3のとおり二八七四万五五九一円であり、右(一)の所得金額二八九六万九二六一円を上回らないから、六三年四月期更正は適法である。

4  外注費が架空であるとした理由

(一) 右1ないし3の各(二)の各外注費(以下「本件外注費」という。)の支出の経緯についての原告の本訴における当初の主張は次のようなものであった。すなわち、原告代表者は昭和五九年頃、株式会社コンピュータ・オートメーション(以下「オートメーション社」という。)の代表取締役である矢内義治の勧めにより自動倉庫管理システムのパッケージ化構想に係るプログラム(以下「本件ソフトウェア」という。)の開発を計画し、自らその基本構想をまとめたうえ、本件ソフトウェアのうち出入庫リスト・在庫リスト等の作成、呼出し等に係る部分のプログラム(以下「事務系統プログラム」という。)の開発を佐藤一成(以下「佐藤」という。)に依頼し、昭和六〇年四月頃、本件ソフトウェアのうち実際にその出入庫等の作業を機械に行わせる部分のプログラム(以下「制御系統プログラム」という。)の開発を比嘉武に依頼し、佐藤がした事務系統プログラムの開発業務における技術提供の対価として、同入に対し別表4の「佐藤一成」の欄に記載のとおり六一年四月期に二四〇万円を、六二年四月期に四八〇万円をそれぞれ支払い、比嘉武及びその知人である新井清司、望月正芳及び仲村弘明(以下、右四名を「比嘉ら」という。)がした制御系統プログラムの開発業務の技術提供等の対価として、比嘉らに対し、別表4の「比嘉武」、「新井清司」、「望月正芳」及び「仲村弘明」の各欄に記載のとおり、六一年四月期から六三年四月期にかけて比嘉武に三回にわたり合計一八六八万円を、新井清司に三回にわたり合計一三二三万円を、望月正芳に一八〇万円を、及び仲村弘明に四五五万円をそれぞれ支払った。

(二) 原告は右のような主張をしていたところ、被告が本訴において後記のとおり本件ソフトウェアの設計書が株式会社ダイフクが東北種苗株式会社のために開発したプログラムの設計書と全く同一の内容であることを立証すると、直ちに右の主張を撤回し、比嘉らは、開発業務のためにオートメーション社の端末機を利用する際、同社が保管していた右プログラムを無断で複製し、これをあたかも比嘉らが自ら開発したソフトウェアであるかのように装って原告に提出し、原告を騙して報酬を詐取したものである旨主張するようになった。

しかしながら、原告代表者が、原告の主張のとおり自ら自動倉庫管理システムのパッケージの基本構想を開発するほど自動倉庫管理システムに精通していたのであれば、佐藤や比嘉らにこのように容易に騙されることはあり得ないのであって、原告の右主張は信じ難いものである。原告の主張が右のように変遷した経緯からしても、原告が佐藤や比嘉らに本件ソフトウェアの開発を依頼したことのないことは明らかである。

(三) 右に加え、次の各事実からすれば右の各支出が架空のものであることは明らかである。

(1) 比嘉らはいずれもその居所が明らかでなく、原告は比嘉らの連絡先も把握していない。原告が比嘉らを採用する際に比嘉らが提出したと称する経歴書の記載事項は、住所地、学歴等が虚偽のものである。また、原告は、本訴において当初、比嘉らを原告に紹介した者は岩井正行であると主張していたが、同人が原告に比嘉らを紹介したことはない。これらの事実から比嘉らは実在の人物ではなく、原告が比嘉らに支払ったとする外注費は、いずれも架空の費用であることが明らかである。

(2) 原告提出にかかる本件ソフトウェアの基本設計書(甲第四号証)及び詳細設計書(甲第五号証)は、東北種苗株式会社から委託を受けた株式会社ダイフク(以下「ダイフク社」という。)が、その子会社である株式会社パルテック(以下「パルテック社」という。)に発注し、パルテック社がさらにオートメーション社に仕様の変更を依頼して完成させた「みずほの総合センター第三期増築工事」に係る自動倉庫管理システムのプログラム(以下「東北種苗用プログラム」という。)の設計書と全く同一のものであって、原告が本件ソフトウェアを開発したという事実は存在しない。したがって、原告が佐藤や比嘉らに本件ソフトウェアの開発を依頼したという事実がないことも当然であって、本件外注費は架空の費用であることが明らかである。

5  本件各決定の適法性

本件各事業年度の原告の確定申告において、比嘉らに対する外注費(本件外注費のうち佐藤に対して支払われたとされる外注費を除くものである。)として損金の額に算入された金額(その金額は別表4記載のとおりである。)は、右4のとおり現実には支出されていないから、原告がこれを支出したとして損金の額に算入して本件各事業年度の法人税の確定申告をしたことは、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、または仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に当たる。本件各決定は、いずれも、本件各事業年度の確定申告において架空に計上されて損金の額に算入された外注費について、同項に基づいて算定された重加算税の額を賦課するものであるから適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の事実のうち六一年四月期の確定申告において原告が所得金額として六〇〇万〇七〇〇円を申告したことは認め、その余は否認する。

(二)  同(二)の事実のうち原告が六一年四月期の確定申告において、佐藤、比嘉武、新井清司及び望月正芳に支払った外注費の金額として別表4の「61年4月期」の欄に記載のとおりの金額を損金の額に算入したことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)の主張は争う。

2(一)  同2(一)の事実のうち六二年四月期の確定申告において原告が所得金額として二二六万二三一二円を申告したことは認め、その余は否認する。

(二)  同(二)の事実のうち原告が六二年四月期の確定申告において、佐藤、比嘉武及び新井清司に支払った外注費として別表4の「62年4月期」の欄に記載のとおりの金額を損金の額に算入したことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)の事実は否認する。

(四)  同(四)は主張は争う。

3(一)  同3(一)の事実のうち六三年四月期の確定申告において原告が所得金額として四六五万六四五四円を申告したことは認め、その余は否認する。

(二)  同(二)の事実のうち原告が六三年四月期の確定申告において、比嘉武、新井清司及び仲村弘明に支払った外注費として別表4の「63年4月期」の欄に記載のとおりの金額を損金の額に算入したことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)の売上計上もれの事実は認める。

(四)  同(四)の事実は否認する。

(五)  同(五)の主張は争う。

4(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち原告の主張が被告指摘のとおり変遷したことは認めるが、その余の主張は否認する。

(三)(1)  同(三)(1)の事実のうち比嘉らの居所が明らかでなく、原告が比嘉らの連絡先を把握していないこと、比嘉らの経歴書に記載された住所地、学歴等が虚偽のものであること、原告は本訴において当初、岩井正行が比嘉らを原告に紹介した者であるとの趣旨の主張していたこと及び岩井が原告に比嘉らを紹介した事実のないことは認め、その余は否認する。

フリーのコンピュータ技術者がその経歴を偽ることはよくあることである。また、原告代表者は比嘉らの採用にあたっては比嘉らのソフトウェアの開発に関する経験のみを重視しており、その申告した学歴が真実のものかどうかについては注意を払わなかったから、原告代表者がこれに気づかなかったとしても何ら不自然ではない。更に、原告代表者は、比嘉武の連絡先の電話番号を把握していたので、比嘉らの住所が真実のものであるかどうかについても特に注意を払わなかったのであり、このことも不自然であるとはいえない。

(2) 同(2)の事実のうち原告が佐藤や比嘉らに依頼して開発したと主張していた本件ソフトウェアの設計書の内容が、東北種苗用プログラムの設計書の内容と同一であることは認め、その余は否認する。

5  同5の事実は否認する。

五  原告の主張

本件外注費は架空ではなく、以下の経緯により現実に支出されたものであるから、損金の額に算入されるべきである。

1  原告代表者は、昭和五九年頃、旧来の知人でありオートメーション社の代表取締役でもある矢内義治から、自動倉庫の管理に関するプログラムの需要が増加しているとの話を聞き、原告において本件ソフトウェア、すなわち自動倉庫管理システムのプログラム(利用者の倉庫の個別に対応するプログラムの基本となる共通部分のパッケージ)を開発しようと考え、昭和六〇年一月に自ら本件ソフトウェアの基本構想(甲第一号証ないし第三号証)をまとめ、期間を二年間として総額一、五〇〇万円程度の予算でその設計及びプログラミングを行うことを計画した。

2  原告代表者は、昭和六〇年三月まで原告に勤務していた佐藤に対し、本件ソフトウェアのうち事務系統プログラムの基本となるフォーマットの設計及びプログラミングを依頼し、その報酬として、毎月末にその時点までの作業状況の報告を受けるという条件で月額三〇万円を現金で支払うことを約した。右報酬は原告の派遣従業員の賃金等を基準として定めたものである。

3  原告には制御系統プログラムに詳しい技術者がおらず、本件ソフトウェアの開発のためにはこのような技術者を外部から募集する必要があった。そこで、原告代表者は、求人情報誌などに広告を載せて技術者を募集し、昭和六〇年三月頃、原告が募集広告を依頼していた株式会社リクルートの営業担当者の塩原宏一から、同人の知人である技術者として、比嘉武の名前と連絡先の電話番号を教えられた。原告代表者は、比嘉と電話で連絡をとり、同年四月に原告の本店の事務所において比嘉と面接し、同人の技術者としての力量を信頼し、比嘉に対し、本件ソフトウェアの開発のうち、制御系統のシステム設計及びプログラミング並びにこれらと事務系等プログラムの基本フォーマットを併せたシステム全体のまとめの作業を依頼することとし、その報酬として、月額四五万円を現金で支払うことを約した。なお、右報酬も原告の派遣従業員の賃金等を基準として定めたものである。

4  佐藤及び比嘉は、昭和六〇年五月からそれぞれ依頼された作業を開始し、佐藤は、同年一二月までに事務系統プログラムの設計案をまとめた。一方、比嘉は、昭和六〇年八月頃、原告代表者に対し、制御系統プログラムの開発の作業は作業量が多いので知人の技術者数名に手伝わせたい旨申し入れ、原告代表者に知人の新井清司と望月正芳を紹介した。原告代表者は、右両名に面接し、両名にも同年九月から比嘉とともに制御系統プログラムの開発作業をすることを依頼し、右三名は、同年一二月に制御系統プログラムの基本設計を完了した。

昭和六一年五月からは矢内の好意によりオートメーション社の端末機を無償使用できるようになり、これによって佐藤は事務系等の基本フォーマットのプログラムを、比嘉と新井は制御系統プログラムを、それぞれプログラミングする作業を行い、昭和六三年四月にその作業を完了した。比嘉らが本件ソフトウェアの詳細設計書であるとして原告に提出したものが甲第五号証である。右作業の間の報酬の支払については、右3の契約に従い、佐藤に対する報酬は佐藤に、比嘉らに対する報酬はまとめて比嘉に、作業期間中の毎月末に、作業の進捗状況の報告を受けたうえで、現金で支払っていた。

5  原告代表者は、本件ソフトウェアが佐藤及び比嘉らによって開発を終えたものであり、商品化することのできるものであると信じていた。しかしながら、本訴において、右設計書が他社によるプログラムの設計書と同一であることが判明したことから、原告が調査した結果、比嘉らは、オートメーション社に保管されていた同社が開発中のプログラムを盗用し、これをあたかも自ら開発した本件ソフトウェアであるかのように装って提出した疑いの大きいことが明らかになった。本件ソフトウェアがオートメーション社が開発中のプログラムを盗用したものであるとすれば、原告は、佐藤及び比嘉らによってこれまで同人らに支払った報酬(その金額は別表4に記載のとおりである。)を詐取されたことになるが、仮にそうであるとしても、原告が外注費として同人らに報酬を支払った事実には変わりはないから、本件外注費は損金の額に算入されるべきである。

六  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1の事実のうちオートメーション社の代表取締役が矢内義治であることは認め、その余は否認する。

2  同2ないし5の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因1の真実、抗弁1(二)の事実のうち原告が六一年四月期の確定申告において、佐藤、比嘉武、新井清司及び望月正芳に支払った外注費として別表4の「61年4月期」の欄に記載のとおりの金額を損金の額に算入したこと、同2(二)の事実のうち原告が六二年四月期の確定申告において佐藤、比嘉武、新井清司及び望月正芳に支払った外注費として別表4の「62年4月期」の欄に記載のとおり金額を損金の額に算入したこと及び同3(二)の事実のうち原告が六三年四月期の確定申告において比嘉武、新井清司及び仲村弘明に支払った外注費として別表4の「63年4月期」の欄に記載のとおりの金額を損金の額に算入したことは当事者間に争いがない。

そこで、本件外注費が本件ソフトウェア開発業務の請負の対価として真実支出されたものかどうかという点について判断する。

2  抗弁4(三)(2)の事実のうち、原告が佐藤や比嘉らに依頼して作成させたと主張していた本件ソフトウェアの設計書(甲第四及び第五号証)の内容が、東北種苗用プログラムの設計書の内容と同一のものであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実並びにその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二七号証によれば、原告提出に係る甲第四及び第五号証は、東北種苗用プログラムの設計書を、その作成者であるダイフク社及びパルテック社に無断で、その表題などを付け替えるなどして複写したものに過ぎないこと、東北種苗用プログラムは、東北種苗用株式会社の要望に従い同社の倉庫に専用のものとして作成されたもので汎用性はなく、一般に販売するものとしての商品価値はないことが認められる。

3  右事実によれば、佐藤や比嘉らが本件ソフトウェアの開発に係る設計及びプログラミング作業を何ら行っていないことが明らかである。このことによれば、通常は原告が本件ソフトウェアの開発を計画してその作業を同人らに請け負わせたというような事実はあり得ず、本件外注費が現実に支出されたとは考えられないところというべきである。

二1  原告は、本件ソフトウェアが他社の開発したプログラムと同一内容のものであったことを本訴においてはじめて知ったのであって、原告は佐藤や比嘉らに騙され、同人らが独自に本件ソフトウェアを開発したものと誤信して同人らに報酬を支払ったもので、本件外注費は現実に支払われたものである旨主張し、右主張に沿うものとして、原告代表者本人、証人佐藤一成、証人矢内義治、証人塩原宏一の各供述等が存する。

しかしながら、原告が比嘉らから受け取った本件ソフトウェアの詳細設計書であるとして当裁判所に提出した甲第五号証には、「LM-500」や「ラックビル」という名称が記載されているところ、前掲の乙第二七号証によれば、「LM-500」とはダイフク社のコンピュータのハードウェアとソフトウェアを含めた自動倉庫システムの商品名であり、「LM」及び「ラックビル」はダイフク社の登録商標であること、「ラックビル」という名称はダイフク社以外は使用しない名称であること並びにダイフク社は自動倉庫のメーカーとしては最大手の業者であり、自動倉庫のソフトウェアを開発しようとする者であればLM(ロケーション・マスターの略称である。)という商品名は通常知っていることが認められる。原告代表者は、長年コンピュータ会社を経営し、コンピュータのソフトウェアの開発業務に関する知識や経験を相当程度備えていると考えられるから、原告代表者が本件ソフトウェアの開発のために本当に四五〇〇万円を超える多額の外注費を支出したものならば、甲第五号証中に「LM」や「ラックビル」というダイフク社の商品名が記載されているにもかかわらず、被告から指摘を受けるまでの長期間にわたり、自分の手許にある甲第五号証が他社製のプログラムの設計書であることや、そのプログラムには汎用性のないことに気づかないまま、甲第五号証が原告の企画した汎用ソフトウェアたる本件ソフトウェアの設計書であると信じて不服申立手続や本件訴訟手続を追行していたなどという事態は、通常起こり得ないことといわなければならない。

2  原告代表者は、その本人尋問において、甲第五号証に記載された「LM-500」という名称は、佐藤ないし比嘉らが勝手につけた名前であってコンピュータの機種名ではないなどと供述しているが、同時にLMとはロケーション・マスターの略称であるなど、ダイフク社の登録商標であることを知っていることを窺わせる供述もしているうえ、甲第五号証は特定の倉庫を想定して作成されたものであると供述しており、その供述はそれ自体において信用性に乏しいものといわざるを得ない。

次に、証人佐藤一成は本件ソフトウェアの開発作業の報酬を受け取った旨証言し、更に、証人矢内義治は、本件ソフトウェアの開発作業のために原告代表者から紹介された新井ら三名の者にオートメーション社の端末機を使用させた旨を証言する。しかしながら、既に述べたとおり、佐藤や比嘉らが甲第五号証のようなものを原告代表者に引き渡して、本件ソフトウェアの開発作業を行っていたという虚偽の事実を取り繕うなどという事態は考え難いから、右のような証言は、原告の本件訴訟の当初における主張に同調しただけの証言と考えられ、何ら信用性はない。

これに対し、原告は比嘉らが原告代表者から報酬を受け取ったことを証するものとして「フリー契約者料金支払台帳」と題する台帳(甲第六号証)を提出しているが、右台帳には月ごとに佐藤や比嘉らの印鑑が押捺されているだけで、佐藤や比嘉らの署名がないうえに、これに押捺されている印影は三文判によるものであって、比嘉らが有する印鑑によるものであるとの立証もされていない。したがって、甲第六号証が真正に成立したと認めるに足りる証拠はなく、これを報酬の授受の認定に供することはできない。

また、原告は、佐藤や比嘉らがオートメーション社の端末機を使用した状況を記録したものとしてマシン室使用状況表(甲第七号証)を提出しており、同表には新井なる人物が昭和六一年一一月から昭和六三年二月までの間、週に三、四回の頻度でオートメーション社のマシン室を使用したことの記載がされている。しかしながら、甲第七号証には、新井以外の者がマシン室を使用したことの記載がなく、このことは佐藤もオートメーション社のマシン室を使用したとする原告の主張及び証人佐藤一成の証言に矛盾する。また、成立に争いのない乙第二九号証によれば、甲第七号証の作成者であり実際にマシン室を管理していたとされるオートメーション社の従業員の上原孝子は、新井の特徴やそのマシン室の使用状況について具体的な供述を全くできないことが認められる。上原が、甲第七号証の記載のとおり一年以上にわたって新井と毎週三、四回程度顔を会わせ、新井のために深夜まで居残りを余儀なくされたこともあったとすれば、その特徴等を記憶していないということは極めて不自然であるから、このことに照らせば甲第七号証の真正な成立には強い疑いがあり、これによって佐藤や比嘉らがその記憶どおりマシン室を使用したと認めることはできない。

なお、証人塩原宏一は、原告代表者に比嘉武を紹介した旨供述しているが、仮に、右供述どおり同人が原告代表者に比嘉武を紹介したとしても、そのことは、原告が本件ソフトウェアの開発を比嘉に依頼し、同人にその報酬を支払ったことまで推認させるものではないから、右供述は本件外注費が架空であるとの推認を覆すものではない。

3  以上によれば、本件外注費は現実には何ら発生しておらず損金の額に算入できないことが明らかである。

三  本件各更正の適法性について

1  六一年四月期更正の適法性について

抗弁1の事実のうち六一年四月期の法人税の確定申告において原告が申告した所得金額が六〇〇万〇七〇〇円であることは当事者間に争いがなく、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した九二三万円が損金に当たらないことは右二のとおりであるから、原告の六一年四月期の所得金額は六〇〇万〇七〇〇円に九二三万円を加えた一五二三万〇七〇〇円である。六一年四月期更正における所得金額は、別表1のとおりこれと同額であるから、右更正は適法である。

2  六二年四月期更正の適法性について

抗弁2の事実のうち六二年四月期の法人税の確定申告において原告が申告した所得金額が二二六万二三一二円であることは当事者間に争いがなく、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した一五六〇万円が損金に当たらないことは右二のとおりである。そして、右1のとおり六一年四月期の所得金額は九二三万円増加し、これに伴って六二年四月期の未納事業税として当期の損金の額に算入すべき金額は一〇七万七六〇〇円であるから、原告の六二年四月期の所得金額は二二六万二三一二円に一五六〇万円を加え、一〇七万七六〇〇円を差し引いた一六七八万四七一二円となる。六二年四月期更正における所得金額は、別表2のとおり一六六七万六九五二円であり、右金額を上回らないから、右更正は適法である。

3  六三年四月期更正の適法性について

抗弁3の事実のうち六三年四月期の法人税の確定申告において原告が申告した所得金額は四六五万六四五四円であること及び右確定申告において原告が五二四万六〇〇七円を売上を益金に計上しなかったことは当事者間に争いがなく、原告が右確定申告において外注費として損金の額に算入した二〇六三万円が損金に当たらないことは右二のとおりである。そして、右2のとおり六二年四月期の所得金額は一四五二万二四〇〇円増加し、これに伴って六三年四月期の未納事業税として当期の損金の額に算入すべき金額は一五六万三二〇〇円であるから、原告の六三年四月期の所得金額は、四六五万六四五四円に五二四万六〇〇七円及び二〇六三万円を加え、一五六万三二〇〇円を差し引いた二八九六万九二六一円となる。六三年四月期更正における所得金額は、別表3のとおり二八七四万五五九一円であり、右金額を上回らないから、右更正は適法である。

四  本件各決定の適法性について

本件各事業年度の原告の確定申告において、比嘉らに対する外注費として損金の額に算入された金額(その金額は別表4記載のとおりである。)は、右二のとおり現実には支出されなかった架空のものであり、原告がこれを支出したとの外観を作出して、これがあったものとして損金の額に算入して本件各事業年度の法人税の確定申告をしことは、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、または仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に当たる。

本件各決定はいずれも、本件各事業年度の確定申告において架空に計上された右外注費につき、同項に基づき算定された重加算税の額を賦課するものであるから適法である。

五  以上の次第で、本件各更正及び本件各決定には何ら違法な点はなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条の規定を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 橋詰均 裁判官 武田美和子)

別表1

本件課税処分の経緯(自昭和六〇年五月一日至同六一年四月三〇日事業年度分)

〈省略〉

別表2

本件課税処分の経緯(自昭和六一年五月一日至同六二年四月三〇日事業年度分)

〈省略〉

別表3

本件課税処分の経緯(自昭和六二年五月一日至同六三年四月三〇日事業年度分)

〈省略〉

別表4

外注費

〈省略〉

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